39歳・飲食店店長が「退職代行」を選んだ理由
「最後の一線は、自分で守るしかなかったんです」
そう静かに話してくれたのは、木下蓮さん(39歳)。飲食チェーンで店長を務めていた木下さんは、長年、現場の最前線で責任を背負ってきました。ですが、その背中には、想像を超えるプレッシャーと孤独があったといいます。
「店長だから我慢しなきゃ」「正社員だから逃げられない」――そう思い続けた日々の末、彼が選んだのは、退職代行サービスでした。
「アルバイトが使うもの」というイメージを覆す、正社員店長としてのリアルな体験を、木下さんに伺いました。
体験者プロフィール
木下蓮(きのした れん)さん|39歳・飲食店 店長(正社員)
店舗責任者として全てを任されるも、FCオーナーの干渉とプレッシャーに心が擦り切れ、家族との時間も奪われた。深夜にLINEで叱責されることも日常で、うつ症状が現れ始めた。
「店長=すべての責任者」その重みが、のしかかる
まずは、当時の働き方について教えていただけますか?
チェーンの居酒屋で、店長として4年ほど勤務していました。ホールもキッチンも両方やって、採用やシフト管理、売上管理まで全部です。表向きは「現場の裁量に任せている」ということになっていましたが、実際はオーナーの細かい指示と干渉が常に入る状態でした。
裁量があるようで、実際は自由に動けない?
まさにそれです。たとえばメニューの変更や人員の配置なども、相談ではなく「命令」でした。営業時間外でも電話がかかってきたり、深夜にLINEで「売上が足りない」「人件費を抑えろ」と言われたり。対応しないと、翌朝には怒鳴り声で詰められる。休みの日も通知が怖くてスマホを手放せませんでした。
プライベートにも影響が出ていたのでしょうか?
もちろんです。朝は早く、夜は終電か、それを過ぎる日もありました。子どもが起きている時間に家にいられることなんて、ほとんどなかった。ある日、娘に「おじちゃん」って言われたことがあって……冗談でも、さすがに心が折れそうになりましたね。
それは、かなりつらいですね……。
それでも、「店長だから仕方ない」「誰かがやらなきゃ」と思って、自分を納得させていました。スタッフにも「休め」とは言えるのに、自分は休めない。気がつけば、笑わなくなっていたし、食欲もなくなっていました。
1年ほど前ですね。ある日、突然息が苦しくなって、立っていられなくなったんです。病院で「軽いうつ状態です」と言われました。でも、休職や退職の話を出しても、「代わりがいない」「逃げるのか」と言われて取り合ってもらえず……。「辞める=裏切り」というような空気がありました。
そこで退職代行という選択肢が浮かんだ?
はい。正直、それまでは「バイトの人が使うもの」というイメージでした。でも、ネットで検索してみたら、正社員や管理職でも使っている人が多いと知って。それで、意を決して相談してみたんです。
退職代行を利用したときの流れは、どうでしたか?
とてもスムーズでした。LINEで状況を伝えて、担当の方と必要な情報をやりとりして、翌日には会社に連絡してもらいました。退職届も郵送でOKで、自分から会社と直接やりとりする必要は一切ありませんでした。
会社側からの反応は?
何も連絡は来ませんでした。引き継ぎがないと困るとか、責任を果たしていないとか言われるかと思っていたけど、実際は代わりの人間はすぐに用意されていたようです。だからこそ、あのプレッシャーは何だったんだろうと思いましたね。
退職後の生活は、いかがですか?
心がとても軽くなりました。今は体調を優先して、無理のないペースで働いています。家族との時間も取り戻せました。子どもと一緒にお風呂に入って、「今日こんなことあったよ」って話せる。それだけで十分です。
当時の自分に声をかけるとしたら、何と言いたいですか?
「もっと早く逃げてよかったよ」ですね(笑)。本当に、あのときの自分には「我慢しすぎるな」と言いたいです。責任感が強い人ほど、限界を無視してしまう。でも、身体と心が壊れてしまったら、何の意味もないですから。
最後に、今「辞めたいけど言えない」って悩んでる人に、ひと言お願いします。
退職代行って、逃げ道じゃなくて「自分を守るための選択肢」なんですよ。どんなに頑張っても、限界が来るときは来る。誰かが「辞めていいよ」と言ってくれるわけじゃないから、自分で判断しなきゃいけない。もし言い出せないなら、第三者の力を借りるのも立派な方法だと思います。
退職代行は、責任放棄じゃない
木下さんの言葉から感じたのは、真面目で、責任感があって、それゆえに深く悩んでいた姿でした。そして、「退職代行」という選択が、決して特別なものではなく、誰にとっても使える「自分を守るための手段」だということを、静かに教えてくれました。
「辞めたい」と思ったとき、あなたはそれを口にしてもいい。
そして、言えないときには、誰かに頼ってもいい――。
あなたの心と身体が一番大切だということを、どうか忘れないでください。